闇のリフレイン

【41〜50】




「空回り」

深夜に発した
ただ一つの問い
流れ行く
ヘッドライトは遠く
言葉だけの紫煙は
君に到達する前に消え
降り始めた雨と
深みにはまったタイヤは
ただ ひたすらに
君と僕の掌との間で
唸りを上げて
空回りするだけ


「愛読書」

君は記号に毒されて
僕が呼んでも気付かない
君は時間に蝕まれ
薄っぺらなストーリーを貪る
そんなにも面白いの?
僕の血潮より
そんなにも楽しいの?
僕のこの手より
 そんなにも
  そんなにも
   そんなにも


「君が眠る街」

影を持たない男が
独り
背中にしょった袋に
壊れた玩具を拾って歩く
季節を持たないサンタクロースのように
男は
迷子の人形を求め
夜を渡り
いつか
君が眠る街に着く


「鳩」

空っぽな両手を
ポケットに突っ込み
君は日暮れの街角を歩く
見飽きた景色の中
足元にじゃれつく子犬のように
影は纏わり
夢は纏わり
信号が変わった途端
一斉に飛び立った鳩のように
君は
僕の手から飛び立って行った


「影」

どんなに隠しても無駄さ
君は
僕と同じ匂いがする
同じ傷をなめる者
同じ暗がりに身を置いた者
どんなに繕っても
僕らは同じ
風を纏い
暗幕引かれた
舞台で踊る影法師


「白鷺」

君は
川面に見つけた美しい鳥
触れたら壊れそうで
裏切ったら
死んでしまいそうで
愛したら
深みにはまりそうで
月夜に
その鳥を噛んだ
  羽ばたきが
  喉を掠め
  時が瞬く
この手に生じた波紋の中
掴んだその鳥を
僕は
強く噛んだ


「磁力」

通り過ぎる夜明け
君はウインク一つ
この手に触れた悲しみ
酔えない唇
互いの磁力に引き合わされて
僕らは朽ちる
互いの磁力に反発し合って
僕らは生きる


「樹海」

薄暗い季節に
上着を合わせ
叫んでも 叫んでも尚
逃げ出せず
樹海で迷う
藻掻いても 藻掻いても尚
抜け出せず
都会で迷う
僕は
瓶の側面
引っ掻き傷さえ残せないまま
この空の下で果てる


「罠」

君の頬で揺れるキャンドル
そこにはいつも
海が波打って沈む
炎はいつも
冷たさを孕んで歌う
なのに僕は
君を求め 夢を見た
言葉はいつも
裏切りを予告する
それでも僕は
逃れられずに
君の頬で溺れ続ける


「動物園」

陳列されてるのは僕ら
檻に閉じ込められてるのは僕ら
回転台の空の下
鳴いているのも僕ら
吸えない煙草の紫煙を追って
君を脇に抱え
台座が折れるまで回し続けるのも
愚か者の船に乗ろうと
そこに走り寄るのも僕ら